一人O-ringテストは論理として矛盾している
どうも、連投のからだのエンジニア 鍼灸師 藤井崇次です。
「もう、すっかり秋ですね~」という挨拶が増えてきました。
ええとですね、連投したのはこの秋の夜長にちょっと気になるYoutubeのタイトルを見てしまったからなんです。
ちょっとそのお話をしようと思います。
タイトル名は『一人O-ringテストのやり方』というものでした。
私、批判記事は好きじゃないのですが、うちのお客様や質問をくれる鍼灸専門学校、鍼灸大学の学生さんのためにばっさりと勧めない理由を書いておこうと思いました。
一人O-ringテストはそもそも欠陥である。
O-ring Testはいわゆる治療業界を賑わした医学博士 大村恵昭先生が考案した『Bi-Digital O-Ring Test』のことです。元々はいかに理学検査を減らせるかを追求して作られたもので、その基礎はAKAなどでも使われる生体反射テストです。
鍼灸でも、経絡に異常があるとその経絡に所属する筋群=経筋が異常に緊張したり、弛緩したりを引き起こします。というか鍼灸の経絡論が元ネタなんですけどね。
それが徒手療術を行う人たちの一部に採用されてAKAとかTFHとかができるわけですが、この辺は割愛。
まずは生体反射テスト自体の問題ですね。
鍼灸を行っている人間としては常識の一つだと思うのですが、経絡の状態は、環境(外因)、心情・気分(内因)、疲れ具合や外傷(不内外因)の影響を受けます。いかに虚=力が入らない経絡であっても、気分が乗っていれば(条件が変われば)、実=力が入るという状態を一時的に引き起こします。
これが生体反射テストがもつそもそもの欠陥です。
具体例をあげると、「たばこは一般的には有害だ」という”思いこみ”があると思います。当然、一人でO-ringテストもどきをした場合、通常は指が離れる=体の力を弱めるという反応を返します。ところが話術やさくらなどを使って環境を整えて「このたばこは特殊なたばこで従来のたばこと異なり非常に良い効果をもたらすんだ」とどこかの通販番組的なテンションで刷り込んで同じことを行った場合、催眠誘導にかかりやすい人ほど、通常と逆の反応が出ます。
まあ、実際のところ、たばこだから有害ではなくて、たばこの功罪と本人とその周りの人のたばこを吸わない利益を考えることが大事なんですけどね。たばこをやめました。ストレスで殴り合いをしましたじゃ、やめないほうが良かったになりかねませんしね。※私はそもそも吸いません。
なので、大村先生は、環境バイアス、認知バイアス、コンディショニングの問題を著書でしっかりと論じています。だからこそ、検査を受けるもの(患者など)、センサー、検査者(医師など)の三者で行うとそもそも定義したわけですね。大村先生によるとセンサー役は公式のトレーニングを受けて認定を受けたものが望ましいそうだ。
鍼灸でO-ring Testを使う場合。三者構造を用意できる鍼灸院などほぼ皆無と言ってよい。また、現在はO-ring Testの講習自体が一般人はもちろん鍼灸師などにも公開されていない。なので日本に入ってきたときの極々短い期間に学んだ人以外は独学というやつで信頼性はまったくと言ってよいほど担保されない。
またいざ2者で行うといった場合、選択肢としては患者さんに二役を課すしかない。つまり検査される役とセンサー役の二つの役割を割り当てる。このときの患者さん側にも認知バイアス=要は強い思い込みがかかる可能性があるという問題もあるが、何よりも検査者である鍼灸師側に問題が生じやすい。一つは、鍼灸師の診断法法上の問題、そしてもう一つがO-ring自体の物理的な構造上の問題。
簡単にいえば、鍼灸師側の思いこみの問題。「このお客さん、脈診ると”肝虚”だよね」とかそういうやつだ。自分に何も知らせずに検査に臨むなんてことは矛盾しているのでこの問題はよほど素人の鍼灸師を除いて払拭することができない。それこそ観察の段階で情報を見て取る望診やら聞診、問診などを避けて通れない以上、完全に排除なんてことは難しい。
そしてそこに構造上の問題が絡む。O-ring Testは拇指と他四指との指先を合わせてOの形状のRing(輪)を作る構造であり、適切なリングを判定するには、両手人差し指で内側からRingを広げて指先が離れず、中指を含めた二指で広げて指先が離れる強度であることを確かめるということになっている。つまり、これは構造上意図してRingを押し広げようとせざるを得ないわけで、「○○に異常があると開き、なければ開かない」という○○に対する思い込みが少なからず発生する。また、異常は経絡を基準に判断すると、虚実、寒熱、湿乾、硬軟などを示さない。
では、鍼灸の生体反射テストとして知っている人は知っている入江式FTはどうだろうか?
これはそもそも鍼灸師側がセンターと検査者の2者を兼ねるところがちがう。また構造上の問題も拇指頭の指腹が人差し指の側面に触れた状態で腕を振るという儀式もとい行為を行うことである程度は意識せずに行うことができるだろう。指が引っかかれば異常検知というロジックだ。もちろん前の構造上の問題はある程度改善がみられても、恣意性の完全排除は難しい。
なので、FTを臨床に使おうというものは、ひたすら腕を振るうという傍から見たら謎なトレーニングをひたすらに積むのである。それでも認知バイアスの完全排除は難しい。なのであくでも目印の一つとしての価値しかない。※便利ではある。
では、O-ring Testにしろ、FTにしろ一人でやる場合の信頼性は担保できるのか。結論的には無理。ただ、状態AがBに変わった的なことであれば、一定性を確保できれば可能だろう。たとえば3kg/重で引いて指が離れたのに、施術後3kg/重では離れず、5Kg/重の仕事量を加えるまで指が離れなかったというように。
だがしかし、「ばね秤などで測っていますよ」という治療院を私は知りません。
あえてきつめの言葉で結ぶのならば、一人O-ringテストは、Bi-Digital O-Ring Testを模した別の何かであると言わざるを得ない。
当然、その有効性を信じ、現場で使うという場合は、その価値と評価を再定義する必要があるだろう。重ねて書くがその模した何かを、Bi-Digital O-Ring Testは説明も、証明も、保証もしない。あくまでも参考資料に過ぎない。
なので「一人でO-ringテストができる」などと妙な思い込みを捨て、採用するのならどう組み込むのか、どう評価するかを現場で試行錯誤しながら組み込むべきだろう。
一方、入江式FTはどうかというと、そもそも鍼灸で生体反射テストを利用することを想定して提唱されたものであり、入江式の鍼灸治療に置いて定義された指標としての価値を持っている。
詳細については、もし学ぶのであれば入江式の勉強会があるので是非門戸を叩かれたし。
追記
もし、『臨床東洋医学原論 入江FTによる診断と治療』(入江正著)を「あげるよ」という方がいらっしゃいましたら、喜んでいただきます。
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